
大人が本気になると、生徒の好奇心が動き出す〜企業・学校がワンチームになった浜松湖東高校、教室に生まれた「共震」〜
「こんなに生徒たちが表情豊かに前向きに取り組む姿を見たことがない」
「自分も、この授業を受けたかった」
授業中に、授業を参観してくださっている浜松湖東高校の先生方から、そんな声が聞こえてきました。
2026年9月3日、静岡県立浜松湖東高等学校で、シヅクリPROJECTの企業訪問授業を実施しました。
この日、2年生230名のもとを訪れたのは、エンケイ、須山建設、ヤマハ発動機、ローランド ディー.ジー.の4社。社員の皆さんが各教室に入り、生徒たちと企業の持つリソースや、その可能性について探究しました。
しかし、今回の授業で印象的だったのは、授業の内容だけではありません。
教室いっぱいに広がっていた、『共震』の熱量でした。
教室に入ったのは、「企業」ではなくワンチーム
授業が始まると、そこに「企業の人」と「学校の先生」という境目は、ほとんどありませんでした。
企業の皆さんは、それぞれの会社のユニフォームや特別に用意したオリジナルTシャツを身につけ、チームとして教室へ。
ある教室では、先生も企業の皆さんと同じTシャツを身につけて授業に参加していました。
企業人が授業をする。
先生がそれを見守る。
そんな関係ではありません。
先生も企業人も一緒になって、生徒の好奇心を引き出す。
教室にいる大人たち全員が、同じ方向を向いていました。
それは、シヅクリが大切にしている「伴奏」が、目に見える形になったような光景でした。


「わっしょい!」が、教室の空気を変える
ある教室では、授業中、「わっしょい!」という声が響いていました。
企業の皆さんが投げかける「わっしょい!」に、生徒たちも「わっしょい!」と応える。
場面の切り替えに「わっしょい!」。
教室の空気が少し止まりそうになると、また「わっしょい!」。
最初は企業側の掛け声だったものが、いつの間にか生徒たちにも、先生にも伝染し、クラス全体の合言葉になっていました。
参加した社員からも、「その後も何かあるたびにみんなで『わっしょい!』と言うようになり、それが生徒にも先生にも伝染して、不思議なくらいの一体感が生まれました」という振り返りがありました。
これは単なる盛り上げではなかったように思います。
ブレインストーミングには、ときに心理的なブレーキを外し、「もっと出していい」「突拍子もないことを言っていい」という状態へ切り替えるための『鬨(とき)の声』のようなものがあります。
(*ブレストにおける鬨の声とは、「チーム全員の心理的ブレーキを外し、思考の戦闘モード(超ポジティブな興奮状態)へ一気に引き上げるための合図・儀式」を言います。)
この日の「わっしょい!」は、まさにそんなスイッチになっていました。
声が上がるたびに、教室の空気が少し前へ動く。
そして、その空気に押されるように、生徒たちの発想も動き始めていました。

説明する人ではなく、「一緒に考える人」になる
企業の皆さんの関わり方にも、今回の授業を象徴する姿がありました。
企業についてプレゼンしている最中から、別の社員がすでに生徒のチームの中に入っています。
スクリーンを見ながら、生徒のすぐ隣で、「これって、こういうことなんだよ」と小さな声で補足する。
プレゼンをする人と、それを聞く生徒。
そんな一方向の授業ではありません。
企業人が、生徒たちのすぐ横にいる。そして、話しかけ、ポイントを伝える。
この日の企業人にお願いしていたのは、答えを教える「先生」になることではなく、生徒とともに探究する伴奏者になることでした。
参加した社員からも、「生徒の近くに座って同じ目線で話すようにしました。そうすると、生徒たちも自然とこちらを受け入れてくれて、距離が縮まったように感じました」という声がありました。
別の社員は、最初は敬語で緊張していた生徒たちが、対話を重ねるうちに自然な言葉で話すようになり、その頃からアイデアも次々と出るようになったと振り返っています。
心理的な距離が近づくことが、発想の広がりにつながる。
そんなことを、大人たち自身も教室の中で体感していました。

大人の熱量が、生徒の好奇心に火をつける
声をかける。
問いかける。
一緒に笑う。
生徒の小さなつぶやきを拾う。
面白いアイデアが出れば、本気で面白がる。
そんな大人たちの姿に応えるように、生徒たちの表情や言葉もどんどん変わっていきました。
机を囲みながら身を乗り出して話す。
仲間のアイデアに、新しいアイデアを重ねる。
「これってどう?」
「だったら、こんなこともできるんじゃない?」
好奇心が、好奇心を呼んでいきます。
ある社員は、生徒たちの姿をこう振り返りました。
「一人の生徒がアイデアを出すと、ほかの生徒が『それだったら、こうするのはどう?』と自然にアイデアを重ねていきました」
事前研修で体験した「Yes,and」を、大人が指示しなくても、生徒たち自身が自然に始めていたと言います。
また別の社員は、研修で時間をかけて取り組んだ発想の広げ方を、高校生たちがほんの数分でどんどん展開していく姿に驚いたと話しています。

「教える熱」ではなく、「一緒に面白がる熱」
今回の教室を見ながら、ひとつ感じたことがあります。
生徒の好奇心を引き出していたのは、企業人がたくさんの知識を持っていたからだけではありません。
先生が上手に授業を進行したからだけでもありません。
そこにいた大人たち自身が、
本気で楽しんでいた。
生徒のアイデアを本気で面白がっていた。
一緒になって可能性を探していた。
その姿こそが、生徒たちに伝わっていたのだと思います。
大人の熱量を、生徒が受け取る。
生徒の好奇心が動き出す。
その姿を見て、大人たちの熱量がさらに上がる。
するとまた、生徒たちの発想が広がっていく。
どちらか一方が、もう一方を動かしているのではありません。
互いの熱量が互いを動かし、増幅していく。
シヅクリでは、この状態を「共震」と呼んでいます。
この日の浜松湖東高校では、まさにその共震が、六つの教室のあちらこちらで立ち上がっていました。


授業のあとに、もうひとつの学びが始まる
そして、生徒たちとの2時間が終わったあと。
企業の皆さんが再び一つの部屋に集まりました。
ここから始まるのが、「ハーベストタイム」です。
それぞれの教室で何が起きていたのか。
どんな声かけがうまくいったのか。どこで難しさを感じたのか。心に残った生徒の姿は何だったのか。
会社の枠を越えて、それぞれが経験したことを持ち寄りました。
ある社員からは、「生徒の手が止まったとき、『世代を変えて考えたら?』『小さい子だったら?』と問いかけると、また発想が動き始めた」という話が。
一方では、「突拍子もないアイデアを『いいね』と受け止めることはできたけれど、そこからどう問い返せば、さらに広げられるのか迷った」という声もありました。
正解を確認するための振り返りではありません。
それぞれが教室で得た経験を持ち寄り、互いの経験から学び、自分自身の関わり方をもう一度捉え直していく。
経験を、学びとして“収穫する”時間。
そして会社を越えて学び合う、もうひとつの越境の場です。
生徒の好奇心は、大人のあり方から始まるのかもしれない
今回の浜松湖東高校の訪問授業を見て、改めて感じたことがあります。
生徒に「もっと主体的になってほしい」と願うことはできます。
「もっと自由に考えてほしい」と声をかけることもできます。
でも、その前に。
生徒の目の前にいる大人たちは、本気で楽しんでいるだろうか。
大人同士は、ワンチームになっているだろうか。
生徒の小さなアイデアを、本気で面白がっているだろうか。
大人たちが変わると、場の空気が変わる。
場の空気が変わると、生徒の好奇心が動き始める。
そして、生徒の好奇心が動けば、その姿に触れた大人たちもまた変わっていく。
今回の浜松湖東高校で生まれていたのは、
生徒だけが学ぶ授業ではなく、大人も子どもも互いの可能性を引き出し合う「共震の場」でした。
探究は、問いから始まるだけではないのかもしれません。
誰かの本気が、誰かの好奇心を揺らすところから始まる。
そんなことを感じた一日でした。
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