
学生と企業人のあいだで生まれた「学びの共震」〜浜松湖東高校での 企業訪問授業レポート
2025年11月、浜松湖東高校の教室に、静かに、しかし確かな震えが広がった。
シヅクリPROJECTの中でも山場となるStep10―生徒が自ら編み出した企業×地域リソースの組み合わせアイデアを企業の社員と共に磨き上げるプロセスだ。
その場で起きていたのは「アドバイス」と「教える」を超えた、学び同士が響き合い増幅していく『共震』であった。
混沌の只中にいる生徒たち

浜松湖東高校に訪れたのは、ENKEI、須山建設、藤本工業、ローランドDG、そしてヤマハ発動機の5社。
生徒たちはStep9までの探究で「企業×地域」のリソースを元に複数のアイデアを生み出していた。しかし、それらはまだ“形になりきらない芽”の段階である。
企画の方向性、価値の着眼点、地域との関係性―すべてが揺れており、迷いと可能性が同居した「混沌」が教室を満たしていた。
だが、この混沌こそ探究の核心である。
そして、そこへ企業の社員が踏み込み、対話が動き出すことで、揺らぎは“前進”へと変わっていった。
ヤマハ発動機が見せた「学ぶ者への愛情」と圧倒的な伴走力
この日の授業では、予期せぬ学級閉鎖が発生した。急な日程変更にも関わらず、ヤマハ発動機は「学生の学びの機会を絶対に途切れさせたくない」と、元の訪問人数と同数の社員を社内で再度募り、翌週の授業に参加してくれた。
その姿勢は、単なる企業連携を超え、生徒の学びを自社の“使命”として受け止める覚悟に満ちていた。
教室ではその姿勢がさらに明確に表れた。
• 複数の社員が精力的に全チームを回り、入れ替わり立ち替わり丁寧に対話を重ねる
• 生徒の理解度に合わせて、リソースの意味や背景を1つずつ確認し、見落としていた価値を一緒に発見する
• 課題解決志向に寄りがちな生徒たちを「20年後の価値」「理想の未来の街」へと引き上げる問いで誘導する
生徒は「教えてもらう」立場ではなく、未来を一緒につくる地域イノベーターへと変わっていく。
その関係性の変化は、表情の変化として明らかだった。
最初は戸惑い気味だった生徒が、社員との対話を重ねるごとに目の輝きを増し、
「アイデアが広がってきた!」
「面白くなってきたから、もっと調べたい!」
と前のめりになっていく。
企業の愛情が、学生の意欲に火をつける瞬間だった。

生徒だけでなく、企業人も震えた
共震は一方向には起こらない。
生徒の変化を目の当たりにした企業の社員もまた、ふたたび火がつく。
生徒たちのアイデアが広がり始めると、その変化は企業の社員にも確かな影響を与えていった。
教室のあちこちで、スイッチが入ったかのように、社員が“伴走モード”を加速していく。
気づけば、自分たちの経験や専門性を“引き出されるように”自然と語り始めている。
生徒の発想が立ち上がる瞬間に立ち会うことで、対話への没入度が高まり、やり取り自体が面白くなっていく。
「お、今の気づきは面白いね。じゃあ、こういう未来はどう?」
「その視点、すごく良いよ。もっと膨らませてみよう!」
そんなやり取りが次々に生まれ、社員のテンションもどんどん高まっていく。
ただアドバイスするのではなく、“共につくるイノベーター”としてのスタンスへ、自然とシフトしていく。
学生たちの主体的な姿に触れ、社員がさらに熱を帯びていくことで、対話は一気に推進力を増す。
このスパイラルがまさに、双方の学びが『共震』する瞬間だった。
共震が生む「探究の面白さ」という実感
ある生徒はこう語った。
「企業の方と話す中で、リソースの理解が深まった。そしたら新しいアイデアがどんどん浮かんできて、探究が一気に面白くなった。」
これは探究学習における最も重要な変化だ。
探究は“やらされる学習”ではなく“自分の意思で深める学習”へと切り替わった瞬間、急速に熱量が立ち上がる。
この切り替えの鍵が、企業人が投げかける“問い”と“愛情”であり、それを受けて動き出す学生たちの“変容”である。
共震が広がると、地域に波紋が生まれる
今回のStep10で起きた共震は、ただの授業の一場面では終わらない。
学生と企業人が響き合う関係性は、学校、企業、地域へと波紋のように広がっていく。
• 学生は地域を「可能性の宝庫」として見るようになる
• 企業人は地域や教育と関わる意義を再確認する
• 教室は地域の未来へつながる実験場へと変わる
この小さな震えは、やがて静岡全体の“未来づくりのうねり”へと変わっていくだろう。
終わりに
今回の授業で、私たちは改めて確信した。
探究教育の本質は「教える」「学ぶ」ではなく、「響き合い、共に未来を拓く」ことだということを。
浜松湖東高校のStep10で生まれた共震は、地域の未来をつくるための小さな光である。
そしてこの光は、生徒、企業人、学校、地域―すべての関係者がつながり合うほどに、確かな明るさを増していく。
シヅクリPROJECTは、これからもこの“共震”を地域のいたるところに生み出し、未来を共につくる仲間づくりを続けていく。
文責・レポート:花田浩文
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